発達障害を持つ方のワーキングメモリを補助する工夫

2026.06.26

はじめに発達障害(ADHD、ASDなど)の特性を持つ方にとって、ワーキングメモリ(作業記憶)の機能的な課題は、就労継続支援A型事業所(A型)での安定就労を妨げる主要な原因の一つです。

ワーキングメモリとは、「一時的に情報を記憶し、それを処理・活用する能力」のことで、これが弱いと、業務の抜け漏れや指示の誤解、ミスの増加につながります。A型事業所での雇用契約のもと、給与を得て働くためには、このワーキングメモリの課題を「仕組み」で補うことが不可欠です。

このコラムでは、発達障害を持つ方のワーキングメモリを補助し、業務の正確性と集中力を高めるための具体的な工夫と、合理的配慮について解説します。

1. ワーキングメモリの課題が業務にもたらす影響

ワーキングメモリ(WM)は、PCに例えると「一時的な作業スペース(RAM)」のようなものです。このスペースが狭いと、以下の問題が発生しやすくなります。

課題の内容 業務での具体的な影響 A型事業所でのミスの例
指示の記憶が困難 一度に複数の指示を受けると、最初や最後の指示を忘れる。 データ入力で、「このデータは入れない」という除外ルールを忘れる。
作業の順序が混乱 複雑な工程を、どこから手をつけているか見失う。 Tシャツ制作で、印刷と転写の順序を間違え、フィルムを無駄にする。
集中力の低下 処理中の情報量が増えすぎて脳がフリーズし、パニックになる。 軽作業中に突発的な依頼が入った際、元の作業に戻れなくなる。

2. ワーキングメモリを補助する具体的な「外部化」の工夫

ワーキングメモリの負担を減らすには、「頭の中の情報をすべて外に出す(外部化する)」という戦略が最も有効です。A型事業所では、以下の構造化されたツールを使用します。

① 視覚的なマニュアルと手順書

口頭での指示は、その場限りで消えてしまうため、ワーキングメモリへの負担が非常に大きいです。

訓練内容:すべての業務を写真やフローチャートを用いた視覚的なマニュアルに変換します。これにより、視覚情報に強い特性を活かし、記憶に頼らずに作業を進められます。

② チェックリストと「タスクの見える化」

作業の抜け漏れを防ぎ、進捗状況を客観的に把握します。

訓練内容:タスクを細かく分解し、チェックリストを作成します。完了するごとにチェックを入れ、「今、どこまで終わったか」を常に確認できるようにします。

メリット:達成感が視覚的に得られるため、モチベーションの維持にも繋がります。

③ 整理整頓と「定位置管理」の徹底

作業に必要なものを探す時間は、ワーキングメモリを無駄に消費します。

訓練内容:業務に必要な道具や書類は、「定位置」を決め、使ったらすぐに元に戻すことを徹底します。

習得スキル:探す時間をゼロにし、集中力を「探す作業」ではなく「本来の業務」に集中させる業務効率化の技術が身につきます。

3. A型事業所での「合理的配慮」と職員のサポート

A型事業所の職業指導員や生活支援員は、以下の合理的配慮を通じて、利用者様のワーキングメモリの課題を補います。

① 指示伝達の工夫

  • シングルタスク指示:指示は一度に一つ、具体的かつ簡潔に行います。複数の指示がある場合は、優先順位をつけてメモ(書面)で渡します。
  • 復唱の奨励:指示内容を理解したか、利用者様が口頭や筆談で復唱することを奨励し、誤解を防ぐ仕組みを導入します。

② 環境調整とツールの利用

  • デジタルツールの活用:Google Keepやリマインダーアプリなど、スマホのリマインド機能を活用して「やるべきこと」を外部化する指導を行います。
  • 騒音の遮断:聴覚過敏による集中力の低下を防ぐため、ノイズキャンセリングヘッドホンの使用や静かな座席への配置といった環境調整を行います。

4. まとめ:ワーキングメモリ補助は「安定就労」の技術

ワーキングメモリの課題は、「仕組み」と「構造化」という技術で克服できます。

就労継続支援A型事業所で、給与を得ながら視覚的チェックリストや定位置管理といった合理的配慮を積極的に活用することは、あなたの業務の正確性と集中力を高め、安定就労を確実なものにします。

この「外部化の技術」こそが、一般就労を目指す上での強力な武器となります。

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