職場での「困った」をどう伝える?一般就労後の相談術

2026.08.26

就労継続支援A型事業所(A型)での勤務を経て一般就労に移行した後、職場で「困った」と感じた際に、適切かつ冷静にその状況を伝えられるかどうかは、安定就労の継続に直結します。A型事業所のような生活支援員が身近にいる環境とは異なり、一般企業では「困りごと」をプロフェッショナルな言葉に変換して伝える技術が必要です。

このコラムでは、一般就労後の「困った」を建設的に伝えるための相談術と、就労定着支援などの外部サポート体制を上手に活用する方法について解説します。

1. 「困った」を伝える際の基本ルール:感情ではなく事実に

職場での「困った」を伝える際、感情や主観的な感想(例:「あの人が嫌い」「仕事がきつすぎる」)を先に伝えてしまうと、問題の本質が上司に伝わりにくくなります。常に客観的な事実に焦点を当てて相談を進めるのがプロの基本です。

① 「報連相」の基本フォーマットを適用する

A型事業所で繰り返し練習したホウレンソウ(報告・連絡・相談)の型を、一般就労後の相談時にもそのまま適用します。特に、以下の3つの要素に情報を整理して構造化して伝えます。

  • 結論(何が起きているか): 「現在、〇〇業務で手順が分からなくなってしまい、作業が一時的に停止しています。」
  • 根拠・事実と原因: 「お渡しいただいたマニュアルAの3ページ目と、マニュアルBの5ページ目の手順の記述に矛盾している箇所がございます。」
  • 依頼(解決策の提案): 「こちらの2つのマニュアルについて、現時点ではどちらを優先して進めるべきか、ご指示をいただけますでしょうか。」

② 身体の不調は「客観的な状態」で伝える

精神的な不調や、特性からくる感覚過敏による強い疲労を職場に伝える際は、「精神論(やる気や気合い)」ではなく「身体の状態とデータ」として明確に伝えます。

悪い例: 「なんとなくやる気が出なくて辛いです。」
良い例: 「昨夜、睡眠時間が4時間程度にとどまり、本日は集中力が著しく低下している自覚があります。業務の正確性を期すため、誠に勝手ながら午後の【データ入力業務】を、一度【検品業務】などに変更させていただくことは可能でしょうか。」

2. 一般就労後の「困りごと」の種類別相談術

法定雇用率が2.7%へ引き上げられた現代の障害者雇用では、合理的配慮をより自立して活用することが求められます。相談内容に応じて、相談相手と伝えるべき情報を適切に切り替えましょう。

困りごとの種類 相談相手 伝えるべきポイント
業務手順の不明瞭さ 直属の上司 / 先輩指導員 「マニュアルのどの部分が理解しにくいか」を具体的に示し、必要に応じてテキストや図入りの文書による明確な指示を依頼する。
業務量の過負荷 上司 / 人事担当者 具体的な残業時間や作業件数と、それにともなう体調への影響を、客観的な数値データ(例:睡眠時間の減少、直近の通院記録)を交えて伝える。
対人関係のストレス 人事担当者 / 産業医 「あの人が苦手だ」という人格の否定ではなく、「その人の具体的な行動が、自分の業務への集中力にどう物理的に影響を及ぼしているか」を主観を交えず伝える。
体調悪化・再発の予兆 定着支援員 / 産業医 A型事業所で記録してきたセルフモニタリングのデータ(睡眠不足の連続日数や疲労蓄積のサイン)を提示し、深刻化する前の計画的な休息や業務調整を提案する。

3. 定着支援と職員のサポートを最大限に活用

一般就労後の「困った」を自分一人の力だけで解決しようとする必要はありません。外部の公的な福祉のバックボーンである就労定着支援サービスを賢く頼りましょう。

① 定着支援員を「代弁者」として活用する

就労定着支援サービスは、入社後の6ヶ月目から最長3年間(必要性が認められれば最長5年間)にわたり、あなたと企業の間に立ちサポートを継続します。

具体的な活用法: 企業に対して直接自分で切り出しにくい「給与に関する質問」や「過度な業務量の調整」、あるいは入社前に取り決めた「合理的配慮の再調整」などを、あなたの代弁者として企業側と専門的な言葉を用いて対等に交渉・伝達してくれます。
A型事業所での強みを活かす: 定着支援員に対して、ディヤーナ松本などのA型事業所で実際に効果があった内容を整理した「合理的配慮リスト」を共有しておくことで、支援員のあなたに対する理解が深まり、企業への交渉・引継ぎがスムーズになります。

② 相談は「早期」に行い、深刻化を防ぐ

「このままだと体調を崩しそうだ」「業務についていけない」といった「困った」状態が3日以上継続している場合は、問題を一人で抱え込まず、すぐに定着支援員や社内の産業医にアラート(連絡)を出しましょう。大きな体調不良や欠勤といった取り返しのつかない状況に発展する前にプロが介入することで、雇用契約の確実な維持と、安心できる定着就労の継続へと繋がります。

4. まとめ:「困った」は「成長」のサイン

一般就労後の新しい職場で「困った」と感じることは、あなたの能力が足りないからではありません。「新しい環境と自分の特性の間に、まだ小さなギャップがある」という、あなたがステップアップするための健全な「成長」のサインです。

感情に流されず客観的な事実に基づいて、冷静かつ建設的なホウレンソウを行い、定着支援員のサポートを最大限に活用しましょう。A型事業所で給与を得て働いたリアルな経験を武器に、この相談術を自分のものにすることこそが、あなたの安定した雇用と長期的なキャリアを末長く守るための最大の鍵となります。

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